この記事では、世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ という本の内容を簡潔に解説します!
本記事では、主に以下の3点を紹介します。
- 「美意識」を重視して意思決定をした例
- 「美意識」を鍛える理由
- 「美意識」の鍛え方
はじめに
私は判断や決断をするときに、できるだけ論理的に考えたいと思う傾向にあります。感情よりも論理を優先することで、より適切な判断ができると考えているからです。
しかし、論理的に考え抜くことに対して、どこかに言語化できない限界を感じていました。
そこで手にしたのが世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? という本です。
この本を手に取った理由は、論理の対極に位置するように感じられる「美意識」という観点を、物事の判断軸として重視していることに興味を持ったからです。
この書籍の構成は、最初の約10ページに結論(「美意識」を鍛える理由)がまとめられており、残りはこの理由を具体例を用いて解説する、という構成になっています。
そのため、時間がない人でも非常に読みやすいと感じました。
「美意識」を重視して意思決定をした例
革新的な製品や世界的なサービスを生み出す際には、論理的思考を突き詰めて判断していると考えている方も多いと思います。しかし、内在的な「真・善・美」を判断基準としているケースも多くみられます。
書籍内では、代表例としては以下が紹介されています。
- 真:ソニーのウォークマン・アップルのiMac
- 善:Googleの人工知能に関する倫理委員会
- 美:マツダの「鼓動」というデザインテーマ
私たちが思っている以上に、美意識が大切なのかもしれません。
「美意識」を鍛える理由
- 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
- 世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
- システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
論理的・理性的な情報処理スキルの限界とは、具体的には以下の2点です。
- 複雑な課題に対する意思決定ができない
- 論理的・理性的な情報処理スキルは、単純化された課題に対しては有効です。
- 複雑な課題に対して完全に論理的な結論を出すためには、必要となる情報が膨大になるため、これらのスキルだけでは意思決定できません。
- 意思決定の結果が差別化できない
- 情報処理を「論理的」かつ「理性的」に行う場合、入力する情報が同じであれば出力される結果も似たような内容になります。
- 教育のおかげで多くの人が論理的かつ理性的に正解を出す技術を身につけたので、意思決定の結果が他者と差別化できなくなりつつあります。
そのため、複雑で不確実性の高い意思決定においては、どこかで「論理と理性」による検討から、意思決定者の「美意識」に基づいた「直感と感性」による意思決定に切り替える必要があります。
世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
世界中の市場が「自己実現的消費(自己実現の欲求を満たすための消費)」へと向かいつつあるとする根拠は、以下の2点です。
- マズローが提唱した「欲求5段階説」における下位の欲求が世界中で満たされつつある
- 「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層のうち、これからは「承認欲求」や「自己実現の欲求」を刺激する感性や美意識が重要になる。
- 市場のライフサイクルカーブ(導入期・成長期・成熟期・衰退期)の変化に伴い、消費者が求めるベネフィットも「機能的便益 → 情緒的便益 → 自己実現的便益」と変化することが一般的に知られている。
- 最終的に、製品やサービスはファッション的側面で競争することになる。
イノベーションを起こしても、デザインとテクノロジーはコピーされるリスクが高いです。そのため、イノベーションの先にある「ブランドに付随するストーリーと世界観」が大事になります。
そして、世界観とストーリーの形成には高い水準の美意識が求められます。
システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
現代社会はシステムの変化が早く、法律等のルールが事後的に制定されることも往々にしてあります。
そのような社会で「明文化された法律やルールに違反していなければ問題ない」という考え方は、以下の2点の理由で非常に危険です。
- 倫理を踏み外すリスクが高まる
- 強い達成動機に端を発するコンプライアンス違反を犯すリスクが高まる
そこで、自然や人間の本性に合致するかや「真・善・美」に則っているかを踏まえて判断することが、より一層重要になります。
つまり、内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められることになります。
「美意識」の鍛え方
概要
「美意識」を鍛える理由で提示した課題が存在する社会で、より質の高い意思決定を行うためには、自分の内部に主観的な判断基準を持つ必要があります。
- 真:論理から直感へ
- 善:法律から道徳や倫理へ
- 美:市場調査から審美感性へ
ソマティック・マーカー仮説では、適時・適正な意思決定には理性と情動の両方が必要であり、情報に接触することで呼び起こされる感情や身体的反応が意思決定の効率を高める、とされています。
高度な意思決定の能力が直感的かつ感性的なものであるとすると、絵画や音楽を美しいと感じる「美意識」を鍛えることは理に適っているといえます。
具体例
書籍内では以下の5つが紹介されていました。
- 絵画を見る
- 観察力が向上する
- VTS(Visual Thinking Strategy)
- パターン認識から解放されて純粋に「見る」力がつく
- 哲学に親しむ
- 哲学者がそのように考えたプロセスと世界や社会への向き合い方から、システムを懐疑的に批判して改善するスキルを学べる
- 文学を読む
- 哲学を物語形式で考察してきたもの
- 詩を読む
- 言葉の表現力を高める
他にも、音楽鑑賞や観劇などいろいろとあると思いますので、自分が興味を持てるものから取り入れられると良さそうです。
所感
上の解説以外にも、「デザイン」と「経営」には「エッセンスを抽出して他を切り捨てる」という本質的な共通点がある、という考え方には納得しました。たしかに、「視覚的に表現すればデザイン、経営の文脈で表現すればビジョンや戦略」になり、ともに「選択と捨象」が肝要です。
そして、ソフトウェア開発においても、何を実現し、何を実現しないかを見極めることが大切です。
そう考えると、アートを通じて美意識を鍛えることの重要性に、一定の説得力があります。
そして、AIによって論理的な情報処理の一部が代替されつつある現代だからこそ、エリートに限らずすべての人にとって「美意識」を鍛えることが重要なのかもしれないと思いました。
子どもが生まれてからしばらく美術館には行っていないので、一人の時間ができたら久々に行ってみようかなと思います。
あわせて、論理と哲学に関してはブログ記事を書いていますので、ぜひ読んでみてください!
- それゆけ!論理さん|要約・感想|論理学を学んで日常で役立った3つのポイント【書籍から学ぶ】
- 愛とか正義とか: 手とり足とり!哲学・倫理学教室|要約・感想|哲学初心者が学んだ「概念」と「考える力」【書籍から学ぶ】
読書メモ
- 書籍の最初に結論がまとまっており、本を読む時間がなかなか取れない人にとってやさしい構造になっている。
- 別の本でもリア王に触れていたけれど、読んでいるのが一般的なのだろうか。
はじめに
- MFA:芸術学修士
- ロジカルアプローチからデザイン思考へ
忙しい読者のために
- 従来の「分析」「論理」「理性」に軸足を置いた経営では、今日の複雑で不安定な世界でビジネスの舵取りをすることができなくなっている。
- 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
- 正解のコモディティ化・差別化の消失
- 複雑な課題に対応しきれない
- →全体を直感的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる構想力や想像力が求められる。
- 世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
- マズローが提唱した「欲求5段階説」における下位の欲求が世界中で満たされつつある
- →承認欲求や自己実現欲求を刺激する感性や美意識が重要になる。
- システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
- システムの変化が早く、ルールが事後的に制定される社会では、明文化された法律を根拠に判断をする実定法主義は倫理を踏み外すリスクがあり危険である。
- →内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められる。
- 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
- これ以降の書籍の内容は、上記3項目の脚注である。
本書における「経営の美意識」の適用範囲
- 書籍内の「美意識」とは、経営における「真・善・美」を判断するための認識のモードのこと。
- 計測が困難なものや論理で白黒つけられないものを判断する際に、「美意識」が必要になる。
- 「社会彫刻」というコンセプト
第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
- 「論理と直感」「理性と感性」という対比
- 直感の好例はソニーのウォークマン、感性の好例はiMac。
- 現在の一般的な日本人の通念としては「論理」と「理性」が優位だと考えられがちであり、こちらに比重が偏りすぎている。
- 超論理的は良いが、非論理的はNG。
- 「論理と理性」に頼った意思決定によってもたらされる弊害
- 複雑な課題に対して、いつまで経っても意思決定ができない
- どこかで、「論理と理性」による検討から、意思決定者の「美意識」に基づく「直感と感性」による意思決定に切り替える必要がある。
- 意思決定の差別化ができない
- 情報処理を「論理的」かつ「理性的」に実施する場合、入力する情報が同じであれば出力される結果も同じになる。教育により、多くの人が論理的かつ理性的に正解を出す技術を身につけた結果、正解がコモディティ化する。
- これに対して、日本は長らく「スピード」と「コスト」で勝負してきたが、昨今ではその強みも失われつつある。
- 複雑な課題に対して、いつまで経っても意思決定ができない
- 経営は、「アート(ビジョン)」が主導し、「サイエンス(論理性)」と「クラフト(現場)」で両脇を固める形態が良い。
- アカウンタビリティ(判断の理由を説明できるか)の観点ではアートの一人負けになるという問題がある。
- サイエンスとクラフトだけでは誰が経営しても同じ結論になってしまうという問題がある。
- 「デザイン」と「経営」には、「エッセンスを抽出して他を切り捨てる」という本質的な共通点がある。
- 視覚的に表現すればデザイン、経営の文脈で表現すればビジョンや戦略、である。ともに「選択と捨象」が肝要である。優れた意思決定の本質は、選択ではなく捨象にある。
- 不確実性の高い意思決定においては、決定者の「美意識(直感や感性)」に基づいた意思決定が必要になる。
- 羽生氏の「美しい棋譜」の例や、カントの「美しいと感じられるとき、それはなんらかの目的に適っている」という指摘の例
第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
- 市場のライフサイクルカーブ(導入期・成長期・成熟期・衰退期)の変化に伴い、消費者が求めるベネフィットも「機能的便益→情緒的便益→自己実現的便益」と変化することが一般的に知られている。
- 最終的に、すべての製品やサービスはファッション的側面で競争せざるを得なくなる。
- イノベーションのその先に何を追求するのか、が鍵になる。
- アップルの本質的な強みは、ブランドに付随するストーリーと世界観である。世界観とストーリーの形成には高い水準の美意識が求められる。
- デザインとテクノロジーはコピーされてしまいかねない。
第3章 システムの変化が早すぎる世界
- VUCA化する世界においては、システムの変化にルールが追いつかないので、美意識を持たないビジネスが厳しい局面を迎えざるを得ない。
- DeNAの不祥事などのように、ビジネスの開始や廃止の判断が経済性や外部からの圧力などの外側からの働きかけが動機になっており、美意識に代表されるような内部的な規範が機能していない。
- 実定法的な考え
- 明文化されたルールのみを根拠とする
- 後出しで違法とされる可能性がある(グレーゾーン金利の例)。
- 自然法的な考え
- 自然や人間の本性に合致するかどうかや、「真・善・美」に則っているかを重んじる
- 倫理上の誤りを犯しづらい
- 強い達成動機に端を発するコンプライアンス違反を犯しづらい
- 目の前のルールや評価基準を、相対的に比較できる知性を持つことが大事である。
第4章 脳科学と美意識
- ソマティック・マーカー仮説
- 適時・適正な意思決定には理性と情動の両方が必要であるとする仮説
- 情報に接触することで呼び起こされる感情や身体的反応が、意思決定の効率を高める。
- 高度な意思決定の能力が直感的かつ感性的なものであるとすると、絵画や音楽を美しいと感じる「美意識」を鍛えることは理に適っているといえる。
第5章 受験エリートと美意識
- 偏差値は高いが美意識は低い人たち
- オウム真理教の幹部など。美意識の欠如と、極端にサイエンス側に偏っている組織。
- 近い業界は、戦略コンサルティング業界と新興ベンチャー業界。
- 「誠実性」のコンピテンシー
- 低レベル:与えられたルールを遵守する
- 高レベル:自分の中にある基準に照らして難しい判断をする
- 「悪」の陳腐化
- 悪とは、システムを無批判に受け入れることである
第6章 美のモノサシ
- 「基準の内部化」が鍵である。
- 真:論理から直感へ
- 善:法律から道徳や倫理へ
- 美:市場調査から審美感性へ
- 「忙しい読者のために」で提示した3種の課題が存在する世界で、より高品質の意思決定を行うためには、主観的な内部のモノサシを持つ必要がある。
- 真:アップルのiMacの例
- 善:Googleの人工知能に関する倫理委員会の例
- 美:マツダの「鼓動」というデザインテーマの例
- 顧客の選考を製品に取り入れるということは、製品のデザインのセンスが顧客のセンスに影響を受けるということになる。
第7章 どう「美意識」を鍛えるか?
- 絵画を見る
- 観察力が向上する
- VTS(Visual Thinking Strategy)
- パターン認識から解放されて純粋に「見る」力がつく
- 哲学に親しむ
- 哲学者がそのように考えたプロセスと世界や社会への向き合い方から、システムを懐疑的に批判して改善するスキルを学べる
- 文学を読む
- 哲学を物語形式で考察してきたもの
- 詩を読む
- 言葉の表現力を高める
おわりに
- システムを改変できるのは、システムの内部にいて影響力と発信力を持つエリートのみである。