この記事では、
- 二重過程モデルの概要
- 賢い人でも非合理的な判断をしてしまう理由
- 望むものを手に入れるための考え方
を、認知科学の観点から整理します。
はじめに
仕事・家事・育児・趣味など、日常のあらゆる場面で、
- 自分は合理的な判断ができているのだろうか?
- 思わず非合理的な言動をとってしまうのはなぜだろう?
などと疑問に思うことはないでしょうか。
「ダイエット中なのに、無性に甘いものが食べたくなり、仕事帰りにケーキ🍰を買って食べてしまった…」という状況が代表例です。
その背景を認知科学の観点から解説してくれる本が「心は遺伝子の論理で決まるのか-二重過程モデルでみるヒトの合理性」です。
この本は「独学大全」の中で二重過程説に関連して紹介されていた本で、「独学大全」を読んでいる時から気になっていました。
早速読んでいきましょう!
結論:重要な3ポイント
まとめ
- 人間は「考える前に反応してしまう」生き物である。
- 知能と合理性は別物である。
- 自身の合理性を客観視する力が必要である。
概要
- 二重過程モデルは、遺伝子の利益のために存在するTASSと、人間の利益のために存在する分析的システムの2つで構成される。
- TASSは、処理が早いが精度が低く、一度実行されると処理が完了するまで止めることが難しい。分析的システムは、論理的思考に適しているが、繰り返すことでTASSに組み込まれることがある。
- 自分の思考や言動から非合理性を排除しづらい理由は、TASSとミーム(模倣などにより受け継がれる文化)の存在に加えて、現代社会では合理性よりも知能に重点が置かれがちという環境もある。
- 知能(アルゴリズムレベルの分析力)が高くても、合理性(意図レベルの分析力)が低いと、非合理的な誤った判断を下すスピードが速くなるという、いわゆる「賢い人が愚かなことをする」状態になる。
- 自分が望むものや状態を手に入れるためにするべきことは、上記の内容を受け入れたうえで、脱文脈化・ミームの評価・メタ合理性の活用、を進めることである。
- 「とある命題に対して合理的であること自体が合理的なのか?」というような高次の評価をすること自体が、非常に大事である。
二重過程モデルの概要
二重過程モデルを理解することで、書籍内の論点が理解しやすくなります。言われてみると「なるほどな!」と、思わず膝を打つと思います。まずは概要を把握しましょう。
二重過程モデルを構成する2つのシステム
さまざまな学者により二重過程論が提唱されています。しかし、それら全てに類似性があるので、書籍内では以下の2つのシステムとしてまとめられています。
- システム1:TASS(The Autonomous Set of Systems:自律的システムセット)
- システム2:分析的システム
この記事でも「TASS」ならびに「分析的システム」という語句を採用します。
TASS
TASSは、進化の過程において、遺伝子の再生産の可能性を高める方向で形成されました。そのため、以下のような特徴を持ちます。
- 認知能力への負荷が少ない。
- 意識外、かつ、分析的処理とは別で動作する。
- 処理が早い。
- 並列的に実行できる。
- 精度が低い。
- 一度実行されると処理が完了するまで止めることが難しい。
そのため、分析的に考えると不適切だと判断される反応を実行してしまうことがあります。
また、同じ言動を繰り返し習練した結果、後天的にTASSとして組み込まれてしまうことがあります。
ストループ効果(文字の意味(例:「あか」)と文字の色(例:青色)のように、同時に目に入る複数の情報が矛盾しているとき、脳内で情報が干渉し合い、判断や回答に時間がかかる心理現象)などは、典型例です。
分析的システム
分析的システムは、人間個人の利益に焦点を定めた制御システムであり、個人的目的の達成感を最大にしようとします。以下のような特徴を持ちます。
- 認知能力への負荷が大きい。
- TASSからの入力情報を受けて作動することが多い。
- 処理が遅い。
- 直列的(一度に1つの思考段階)に実行される。
- 分析的・論理的思考に適している。
- 習練を繰り返すことで、TASSの一部になることがある。
分析的システムによって、TASSの反応が不適切だと判断して、その反応を拒否したり制御することがあります。
また、分析的システムのおかげで、人間は仮定的状態を現実世界と切り離して認識することができます。普段の生活でおこなっている「仮定思考」ができるのも、このおかげです。
人間が非合理的な判断をしてしまう理由
自分の目的や目標に対して最適な言動をしたいと思いつつ、明らかに効果がない言動をしてしまうことはないでしょうか。自分に対する甘い囁きに負けてしまったり、意図しない慢心や驕りに足を掬われたりした経験は、おそらく誰にでもあるでしょう。
最適な言動を取りたいと思いつつ、それがなかなか叶わない理由は何か、を簡潔にまとめます。
TASSに起因する理由
まず、意識外で動作する上に、一度実行されると完了するまで止めることが難しい点が挙げられます。加えて、認知能力への負荷が低く処理が早いことも、重要な原因だと考えられます。
これらの結果、気がついたら非合理な言動をとってしまった、ということにつながります。
そして、認知心理に関する様々な実験や研究から、人間は完璧で一貫した合理性を示すことができず、自分が望むものを手に入れるための最適な行動ができるとは限らない、ということが明らかになっています。
分析的システムに起因する理由
まず、認知能力への負荷が高いことが考えられます。じっくり考えれば適切な判断ができるのですが、単純に大変です。認知負荷の高い思考を避けたくなるのは、自然な反応とも言えます。
もう一点重要な原因は、「習練を繰り返すことで、TASSの一部になることがある」です。
仕事でも家事でも、同じようなことを繰り返していると、「いつも判断Aで良い結果だったから、今回も判断Aで良さそう」と判断しがちです。しかし、微妙な違いが影響して、これまで通用していた判断が、今回は通用しないことがあります。
振り返ると「ちょっと考えれば気付けたのに…」と後悔する、「慢心」や「気の緩み」と言われる、あの忌々しい事象です。
TASSと分析的システムの関係性
TASSは、進化の歴史上古くから存在するシステムであり、遺伝子の複製に適応しています。そのため、人間個人としての利益とは異なる基準で判断が下され、現代社会には不適切な反応を先行させることがあります。
「ダイエット中にもかかわらず、つい甘いものが欲しくなる」などは典型的(そして、多くの人が経験している)な事例です。
それゆえ、分析的システムによってTASSを克服すべき状況が増えています。TASSによる不適切な反応を完全に除去することはできませんが、制御することはできます。
ミームの存在
分析的システムがTASSを制御できただけでは不十分です。その理由は、遺伝子に加えてミームという複製子も存在するからです。
ミームとは、模倣に代表される非遺伝的手段によって受け継がれる文化の一要素で、自らを複製すること自体がミームの利益です。
ミームは複製子として優れているだけであり、真実であるかや、人間の役に立つかは関係がありません。殉職を伴う信念などは、人間個人には役立たないミームの一例です。
ミームは、分析的システムと同様に、繰り返されることでTASSとして取り込まれることもあります。その場合、内省的に獲得したものと、非内省的に獲得したものに分別されます。
非内省的なものの代表例は、ブランド戦略を代表とする広告手段です。特定製品のロゴを見るだけで「その製品を手に入れなくては」という感情を想起させるようになってしまいますが、これは明らかに個人のためではありません。
賢い人が愚かなことをしてしまう原因
多くの賢い人たちが、多くの愚かなことをしてしまうのには、原因があります。
まず、認知科学では、知能と合理性は分析のレベルが異なると考えられています。
- 知能:アルゴリズムレベル
- 知覚情報を正確に分類・分析する
- 合理性:意図レベル
- 目的、欲望、信念との関係で物事を分析する
続いて、TASSと分析的システム、ならびに、アルゴリズムレベルと意図レベルの関係です。
- TASSのアルゴリズムレベルは、分析的システムのアルゴリズムレベルによって制御される。
- 分析的システムのアルゴリズムレベルは、分析的システムの意図レベルに従属する。
- 分析的システムの意図レベル(思考態度)には個人差がある。
- 知能が高くても、分析的システムの意図レベルが動作せず、非合理的な行動をとってしまう可能性がある。
現代社会では、評価も知能に重点が置かれている傾向にあります。その結果、知能だけが高く合理性が伴わない場合は、「非合理的で誤った判断を下す速度が速くなるだけ」というリスクが存在します。
個人にとって最適な言動をするためには、合理性も合わせて高めることが有効です。
人間が望むものを手に入れるための考え方
自分が望む状態を手に入れるためには、どうするべきかが、非常に重要になってきます。
受け入れるべき前提
はじめに、「二重過程モデルとは何か」と「自分の思考や言動から非合理性を排除しづらい理由は何か」を理解することが肝要になります。
個人的に認識しておきたいトップ3は以下の通りです。
- 遺伝子にとっての利益と、人間自身にとっての利益が、一致しない場合がある。
- 分析的システムは、習練を繰り返すことで、TASSの一部になることがある。
- 知能と合理性は別の分析レベルであり、賢い人が愚かなことをしてしまう主要因は、合理性の欠如である。
脱文脈化
脱文脈化とは、「現実の知識や先入観を切り離して考えること」です。
TASSが問題を解決するときには、提示された文脈的情報を自動的にすべて利用する傾向があります。
下記は例題です。
次の2つの命題から結論が論理的に導けるか否か。
命題1 全ての生物は水を必要とする。
命題2 薔薇は水を必要とする。
結論 薔薇は生物である。
「論理的には導けない」が正しいのですが、多くの人は文脈的情報(現実世界では薔薇は生物である)を無意識に利用してしまうため、「論理的に導ける」と誤答してしまいます(書籍内の調査では70%)。
薔薇を浄水器に置き換えると、論理的に導けないことが理解できます。
そのため、何らかの脱文脈化が必要になります。現代のテクノロジー社会において、この脱文脈化は、数は多くはないが現代生活のとりわけ重要な領域で発生する傾向があります。
ミームを評価する
- ミームを評価する規則は4つあります。
- 人間にとって物理的に有害なミームは取り入れない。
- 例:煙草を吸うことは格好良く魅力的である
- 信念に関わるミームは、真(世界の現実の様相を反映している)であるものだけを取り入れる。
- 例:科学
- 欲望に関わるミームは、将来取り入れたくなる可能性があるミームを排斥するリスクがないものを取り入れる。
- 例:早すぎる妊娠、カルト教団による人間関係の破壊
- 評価されること自体を拒むようなミームは取り入れない。
- 例:信仰・陰謀説・言論の自由
- 人間にとって物理的に有害なミームは取り入れない。
まず、自分が取り入れているミームが、熟慮の結果なのか、ただ伝染させられただけなのかを考える必要があります。そして、各ミームに対して取り入れている場合と取り入れない場合の将来を想定して、どちらが自分にとって有用かを判断します。
私が最も大切だと感じたのは、「このミームに対して疑いを持ったら、得られるはずの恩恵が得られなくなる」という主張が組み込まれているミームはまず疑う、ということです。このミームは、批判自体を無力化するため、非常に厄介だと感じます。
マルチ商法などでよく利用される手口なので、覚えておくと良いでしょう。
メタ合理性
メタ合理性とは、合理的判断を手段として合理性自体を制御することです。
合理性をもって、自分自身を批判的に評価すること、とも言い換えられます。「とある命題に対して合理的であること自体が合理的なのか?」という問いをすることでもあります。囚人のジレンマなどは、その問いが必要となる代表例でしょう。
また、本書では、「今は楽をしたい。でも、楽ばかり選ぶ自分にはなりたくない」という葛藤を整理するために、「一次的選好」「二次的選好(一次的選好を批判した上での選好)」という考え方が紹介されています。
ここで大事になるのが、「一次的選好と二次的選好の合理的統合が取れない場合は、三次的選好により双方の妥当性を検討すると良い」ということです。
例えば、ドラッグをやりたい(一次的選好)と考えているが、ドラッグをやりたいとは思いたくない(二次的欲望)とも考えている、という場合に改めて双方の妥当性を検討する場合などがイメージしやすいかもしれません。
検討によって必ず合理的統合が取れるわけではありませんが、まずは一次的な欲望に対して批判的に評価をし、次にその評価に対して評価をする、というように高次の評価をすること自体が重要です。
所感
本書は400ページを超える大作ですが、じっくり読むに値する本だと感じます。この本を通じて、
- 自分の思考や言動から非合理性を排除しづらい理由は何か
- 自分が望むものや状態を手に入れるためにするべきことは何か
がかなり明確になりました。
まずは、たとえ超優秀な人であっても、人間は誰しもが非合理的な判断や言動をする可能性があるという前提で、自分自身だけでなく周囲との関わり方も見直していきたいです。
そして、メタ合理性は、認知能力への負荷は高いですが、自分の人生の岐路において力を発揮してくれるだろうと考えています。
また、書籍内では触れられていませんが、個人的には他人の視点を入れることも大事だと感じています。前提としては自分の内面で分析的に検討するべきですが、その上で自分ではTASSに組み込まれてしまい批評するのが難しいことは、第三者視点で見出してもらうのが良さそうです。
本書内で頻繁に引用されていた「利己的な遺伝子」も過去に読みましたが、なかなか面白いのでおすすめです!
また、独学大全のブログ記事はこちらですので、こちらも読んでみてください。
👉 独学大全|要約・感想|効率よく学ぶための重要ポイント4選【書籍から学ぶ】
読書メモ
- 2008年に発行された書籍であり、発達・教育心理学、特に言語学習障害に関する認知科学研究の専門家によって書かれた書籍である。
- 認知科学に加えて、生物学・心理学・行動経済学などをベースにして執筆されているような印象を受ける。ハウツー本ではなく、抽象的・概念的なことを解説することを重視しているように思える。
- 400ページを超えるボリュームであり、やや内容を理解するのに労力を要する箇所もある。しかし、「理論(概念)→具体例→まとめ」、のような構成になっているので、難しいところは飛ばして読んでも十分に面白い。理解を手助けするための具体例と思考実験の解説も充実している。
- 「独学大全」で使われていた「システム1 / システム2」という単語よりも、「TASS / 分析的システム」という単語がメインで使われている。
- 著者はおそらくアメリカ人なので、アメリカでの出来事や常識が度々引用されている。そのため、日本人には馴染みがない事例もある。
第一章 ダーウィニズムの深淵を見つめる
- 語句
- ショートリーシュ型とロングリーシュ型
- ショートリーシュ型:その時々で細かく指示をする。直接制御。
- ロングリーシュ型:一般的な目的を与えて、判断を委譲する。
- ショートリーシュ型とロングリーシュ型
- 私たち(人間)の複製を作るために遺伝子が存在するのではなく、私たちが遺伝子の自己複製を可能にするために存在する。
- 『利己的な遺伝子』内の概念区別
- 複製子:自己の構造を複製する存在。例えば、人間が持つ遺伝子のこと。
- 乗り物:複製子の容れ物。私たち自身のこと。
- 環境との相互作用の成功度合いで、複製の成功率が左右される。
- 人間も意思を持たない複製子のための乗り物である、という論理を認識しない限り、人間は遺伝子の利益と目的に役立つだけの受動的な道管であり続ける危険がある。
- 人間は、「遺伝子にとっての利益と、乗り物にとっての利益が、一致しない場合がある」ということを認識するだけの知能を持っている。また、遺伝子が自らの利益になるとなれば乗り物を犠牲にする、という事実を認識している。この代表例が老化やクジャクの尾羽である。
- 一方で人間は複雑な生き物なので、ショートリーシュ型では限界があり、ロングリーシュ型である。それゆえ、乗り物の利益にはなるが遺伝子の利益にはならない行動をとることもある。この代表例が避妊をした上での性交である。また、人間だけが、乗り物の利益のために遺伝子の利益を無視した行動を取ることができる。
- 「安全な未来への移住」という思考実験の話が面白い!
- 遺伝子の入れ物から脱却して、遺伝子の利益を優先して乗り物の利益を犠牲にするという行動を取らないように、遺伝子の利益のために行動する部分を私たち自身の利益に奉仕させるための認知ツールを、人間はすでに持っている。その認知ツールは第三、四章で紹介する。
第二章 みずからと戦う脳
- 二重過程に関する理論はさまざまなものが提唱されているが、それら全てに基本的類似性がある(表2.1)。
- TASS:自律的システムセット(The Autonomous Set of Systems)
- システム1のこと
- 認知能力への負荷が少なく迅速であり、並列的に実行できるが、精度が低い。
- 迅速で、自動的で、強制的である。一度発火すると、完了するまで止めることができない。さらに、意識外でこの現象が発生する。
- そのため、分析的処理が不適切だと判断した反応を実行することがある。
- 他のTASSのプロセスや分析的処理と並行して実行され、分析的システムからのインプットを必要としない。
- この自律性は、習練の結果、後天的に習得され得る。色の名前と文字の色が異なる画像の文字色を答えさせる実験など。
- 人間は、自分の意識の外で膨大な活動をしている。
- 盲視患者の例。
- 進化の過程で、遺伝子の再生産の可能性を高める方向で形成された。
- 分析的システム
- システム2のこと
- 分析的・論理的思考に適した強力なメカニズムだが、認知能力への負荷が大きく遅い。
- システム1の反応を拒否・制御することがある。
- TASSからの入力情報を受けて作動することが多い。
- 直列処理のため、一度に1つの思考段階ずつ実行される。
- 合成可能性:ある表現の意味が、表現の構成部分それぞれの意味だけでなく部分の順序からも派生されるような演算システムの特性。人が犬を噛む、と、犬が人を噛む、の例。
- 仮定思考を助けることがある。
- デカップリング(切り離し):ある信念を、外界の現実の状態ではなく、仮定的状態として認識する心的能力
- 完結した生命体としての個人の利益に焦点を定めた制御システムであり、人間の個人的目的達成感を最大にしようとする。
- 習練を繰り返すことで、TASSの一部になることがある。
- TASSは進化の歴史上、古くに発生したシステムなので、現代社会にはそぐわないアウトプットを先行させることがある。例は、ダイエット中にもかかわらず、絶えず甘いものが欲しくなることなど。TASSプロセスの多くが、遺伝子にとっての合目的性に適応してきており、人間個人のレベルでの利益とは異なる基準だからである。
- そのため、分析的システムによってそれらを克服すべき状況が増えている。TASSによる不適切なアウトプットを除去することはできないが、分析的システムで制御することはできる。
- 四枚のカード問題とリンダ問題は面白かった。カード問題は間違った。
- これらの問題は、TASS反応を抑止するうえでのさまざまな問題を、実験室的に再現したものである。
- TASSプロセスの1つとして、アンカリングと調整ヒューリスティックがある。
- ビーンズの例。
第三章 ロボットの秘密の武器 – 合理性について
- ロボットの叛逆:遺伝子の目的ではなく、人間の目的を最優先することで、自分にとっての効用を最大化すること。
- そのためには、分析的システムを活用して、道具的合理性を追求する必要がある。
- 道具的合理性:手元にある資源を所与として、自分が最も望む通りのものが手に入るように、この世界の中で行動すること。実用的合理性、行動の合理性とも呼ばれる。
- 道具的合理性に徹することで、TASSモジュールを牽制することができる。
- 認識的合理性:信念を形成する方法の一つとして、外界から情報が取り入れられること。理論合理性、立証合理性とも呼ばれる。
- 正しい信念を持ちたいという欲望は、多くの目的を達成するのが容易になるという長期的効果をもたらす。
- TASSの存在によって、人間は生得的に合理的ではない。
- 人間が完璧であれば、分析システムがTASSに必ず勝っているはずである。
- しかし、考え方と行動の仕方を変えれば、人間はもっと合理的になることができるはずである。
第四章 認知心理実験でみる、自律的脳のバイアス
- 人間の道具的合理性に対する非合理性を示した実験が紹介されている。
- 「絶対」の公理に関する実験:結果が不確定の場合、意思決定ツリーの全ての枝を点検したがらないために、公理に反する。TASSバイアスの一つ。
- 推移性の公理に関する実験:安定して秩序だった選好を持たない人間が多い。
- 記述的不変性の公理に関する実験:言い回しが変わると意思決定結果も変わる。
- 手続き的普遍性の公理に関する実験:
- TASSは肯定的事例にのみ注目し、真ではないかもしれない状態を見落としがちである。
- 真ではないかもしれない状態に注意を向けるには、分析的システムを利用する必要がある。
- トランプ(KQA)の話
- 真ではないかもしれない状態に注意を向けるには、分析的システムを利用する必要がある。
- プロスペクト理論:得をする文脈ではリスクを避け、損をする文脈ではリスクを冒そうとする。
- フレーミング効果:課題が提示するフレームをそのまま受容しがちである。クレジットカードの例
- これらの結論として、人間は道具的合理性を完全には再現できず、人間が効用を最大化するとは期待できず、合理性を一貫して示すことができず、自分が最も望むものを手に入れるべく行動できるとは限らない。
- 認識的合理性に対する非合理性を示した研究もいくつか発表されている。
- TASSの基本的演算バイアス
- 問題を解決するときに、提示された文脈的情報をすべて、自動的に利用する傾向がある。薔薇の三段論法の例など。
- 何らかの形の脱文脈化が必要になることも多い。
- 問題を解決するときに、提示された文脈的情報をすべて、自動的に利用する傾向がある。薔薇の三段論法の例など。
- なお、認知能力の高い個人では、分析的システムが、TASSが先行させる反応を拒否する確率が高い。
- この章では、TASS反応を進化的適応と言い換えている。
- 脱文脈化:抽象的かつ非個人的なやり方で情報に対応すること
- 現代のテクノロジー社会では、数は多くはないが現代生活のとりわけ重要な領域で発生する傾向がある。
- 市場経済は、人間のTASSを利用して(かつ、分析的システムを発動させないようにして)利益を得ようとすることも多い。
第五章 進化心理学はどのように道を誤ったか
- 進化心理学者が道を誤った原因
- 個人の効用最大化と関連する遺伝性の認知構成要素(知能等)を軽視する傾向がある。
- EEAと現代的環境の不整合から生じる結果を過小評価して、誤解を生じさせる傾向がある。
- TASSが現代世界で合理性を達成するには最適である、という前提を持つ傾向がある。
- 重要な意思決定の多くはほぼ1回限りの出来事であり、EEA時代には存在しなかった。
- TASSが個人レベルの道具的合理性を達成する能力を過大評価する傾向がある。
- 遺伝子の安寧を最大化することと、人間の欲求達成を最大化することの、区別を軽視する傾向にある。
第六章 合理性障害
- この章では、多くの賢い人たちが、多くの愚かなことをしてしまう原因を探る。
- 賢い→知能、愚か→合理性に反する行為
- 認知科学では、知能と合理性は分析のレベルが異なると考えられている。
- 知能→アルゴリズムレベル(知覚情報を正確に分類・分析する)
- 合理性→意図レベル(目的、欲望、信念との関係で物事を分析する)
- 図6.1の解説
- TASSのアルゴリズムレベルは、分析的システムのアルゴリズムレベルによって制御される。
- 分析的システムのアルゴリズムレベルは、分析的システムの意図レベルに従属する。
- 分析的システムの意図レベル(思考態度)には個人差があるので、知能が高くても分析的システムのアルゴリズムレベルが動作せず、非合理的な行動をとってしまう可能性がある。
- 合理性に対する3つの立場
- 楽観論者:人間の行動は合理的である。非常に適切に推論している。
- 改善論者:人間の推論には改善の余地が大きい。もっと適切に推論できる。
- 弁明論者:人間は脳の資源の限界内で最適な行動をとる。可能な限り適切に推論している。
- 子どもにシートベルトを装着しない親の例
- 合理性障害:十分な知能はあるが、合理的に行動できない状態。知能と合理性を区別する。
- 楽観論者は、知能と合理性を区別しない。
- 弁明論者は、意図レベル(合理性)は最適に機能しているが、アルゴリズムレベル(知能)の限界が原因だと主張する。
- 改善論者は、意図レベルの行動制御戦略が最適ではない可能性を考慮するため、
- 合理性障害の存在を仮定できるかが、意図レベルにおける認識改革の可能性を議論する前提である。
- 個人的効用の最大化のためには、合理性の向上が有効である。知能だけ高めても、合理性が伴わないと、誤った判断を下すスピードが早くなるだけである。
- 現代社会では、評価も知能に重点が置かれている傾向にある。
第七章 遺伝子のくびきからミームのくびきへ
- 分析的システムがTASSを制御できただけでは不十分である。遺伝子に加えて、ミームという複製子も存在するからである。
- ミーム:非遺伝的手段、特に模倣によって受け継がれる文化の一要素。
- ミームも遺伝子と同様に利己的であり、自らを複製するということが利益である。
- 複製子として優れているだけであり、真実か・見事か・人間に役立つかは関係がない。
- 繰り返し実践されることで、TASSとして取り込まれるものもある。
- 内省的に獲得したものと、非内省的に獲得したものに分別される。
- 非内省的なものの代表例は、ブランド戦略を代表とする広告手段であり、特定製品のロゴを見るだけで「その製品を手に入れなくては」という反応を発火させる。これは個人のためではない。
- ミーム理論によって得られる洞察
- ある信念が伝播したからといって、その信念が真実だとか、その信念を持つ個人にとってプラスになるとは限らない。
- 不幸の手紙や、殉職を伴う信念への改宗、の例
- ある信念が伝播したからといって、その信念が真実だとか、その信念を持つ個人にとってプラスになるとは限らない。
- そのミームが人間に役立つかは、道具的合理性に反しないことや、反証可能性が存在しないこと、などで判別できうる。
- 科学的思考や合理的思考そのものがミーム複合体なので、検証したいミーム以外を一時的に不動の土台と仮定して評価すると良い。
- そのため、信念や目的を所与として合理的であろうとするだけではなく、信念と目的自体も吟味評価する必要がある。ミーム評価の規則は4つある。
- 人間にとって物理的に有害なミームは取り入れない。
- 煙草を吸うことは格好良く魅力的である、というミームなどは取り入れない。
- 信念に関わるミームは、真であるものだけを取り入れる。
- 世界の現実の様相を反映しているものだけを取り入れる。科学はその好例である。
- 信念の正確さは、内省的に吟味する必要がある。TASSは分析的システムよりも正確さが劣るため。
- 欲望に関わるミームは、将来取り入れたくなる可能性があるミームを排斥するリスクがないものを取り入れる。
- 早すぎる妊娠や、カルト教団による人間関係の破壊、などは取り入れない。
- 未来の自分を別人格として見做して、取り入れるべきかを判断する。
- 評価されることを拒むようなミームは避ける。言い換えると、「何らかの恩恵を受けたければ疑ってはならない」というミームはまず疑うこと!
- 信仰・陰謀説・言論の自由、などが例。
- これらの具体例は、マルチ商法のお偉いさんが自分のチームのメンバーに対して行っている(非常に洗脳に近い行為)に似ている。
- 「ミーム複合体に対して疑いを持ったら、得られるはずの恩恵が得られなくなる」という主張を組み込んで、批判自体を無力化するため、厄介である。
- 信仰・陰謀説・言論の自由、などが例。
- 人間にとって物理的に有害なミームは取り入れない。
- ミームは遺伝子よりも危険な複製子である。
- 自分が取り入れているミームが、熟慮の結果取り入れたのか、ただ伝染させられたのかを考える必要がある。
- すでに持っているミームに対して内省的立場をとるときのコツ
- 将来そうなるであろう未来の人物を想定して、取り入れればためになると思われるミームに焦点を合わせる。
- 自分が持っているミームの一部を「持っていなかったら」と仮定してみる。
第八章 謎のない魂
- 人間が生命の意義を考えるときに繰り返し冒す誤りとして、人間の起源に答えを求めることや、自分自身の意識的内省が挙げられる。
- 起源に焦点を当てると複製子に辿り着き、意識的内省に焦点を当てると「意識」と「意識外の自律的サブシステム」に辿り着く。
- 意識は、認知能力の随伴現象に過ぎない。
- 人間の合理性は動物の合理性とは異なる。意思決定の選択肢に文脈的情報を取り入れる。
- 無関係選択肢からの独立性:レストランの例、ボウル内のリンゴの例
- 最後通牒ゲーム:判断基準が金銭的価値のみではない
- 象徴的効用:直接的効用がない言動だが、その言動で理想とする自己イメージに近づけ維持する助けになる、という効用。
- 投票に行くことや名著を購入する(読まなくても)、など
- 人間の合理的判断においては、象徴的効用が重要な役割を果たす。
- 行動と価値観が矛盾する場合は、一次的欲望と価値観の双方を批判的に評価する必要がある。
- 矛盾の例として、安いサッカーボールとパキスタンの子ども達が縫製したサッカーボールの例
- 二次的欲望:一次的欲望を批判した上での欲望。
- ドラッグをやりたいという欲望(一次的欲望)を持っているが、そのような欲望を持ちたくないという欲望(二次的欲望)。
- 一次的選好と二次的選好の合理的統合が取れない場合は、三次的選好により双方の妥当性を検討すると良い(書籍内では喫煙の例)。検討によって必ず合理的統合が取れるわけではないが、高次の評価をすること自体が重要である。
- 一貫性を達成しても、低次も含む別のレベルの判断を分析してみることも大事である(殉教の例)。
- 合理的選択の公理はすべて、「選択においては適切な脱文脈化が必要である」という暗黙の前提を含んでいる。
- 人間は意思決定において、微妙な文脈的特徴を認識するので、選択行動が複雑化して結果が安定しない(合理的にはならない)可能性がある。
- 合理性を達成するためには、以下の3つが重要である。
- 分析的システムがTASS反応を選択的に拒否すること
- 内省的に獲得した信念
- 内省的に獲得した欲望
- 2番目と3番目について内省的に獲得できるのは、思考の中で対立する信念や欲望を想定して検証や評価ができるからである。
- メタ合理性:合理的判断を手段として合理性自体を制御すること
- 合理的であることは合理的か?という問い。囚人のジレンマや、書籍内ではゴミのポイ捨ての例。
- 合理性をもって、自分で自分を批判的に評価する。
- 市場経済の特徴
- 最大数の個人を満足させるのではなく、個人の枠を超えて集められた欲望を満足させる。
- 1人が持つ2つの欲望と、2人の個人が持つ欲望を足した2つの欲望を区別しない。
- 二次的選好や、合理的統合を達成するための試みを認めない。
- TASSのショートリーシュ型目的を効率良く満たすように適応する。
- 最大数の個人を満足させるのではなく、個人の枠を超えて集められた欲望を満足させる。
- これと同様に、遺伝子も個人の枠を超えて横断的に最適化を追求する。
- 個人としての自立性を獲得するための方程式
- 道具的合理性を追求することに加えて、認識的合理性を追求する。
- 誤った世界観を前提として合理的に目的を追求しても、欲望を完全に満足させることはできない。
- 自分にとっての利益と、TASSの欲望を、切り分けて考える。
- 一次的欲望に対して批判的に評価することを試みることが大切である。
- 分析的システムが活用する長期的目的の多くはミームなので、これらも批判的に評価する。
- 合理性を使って合理性を評価する(メタ合理性)
- 道具的合理性を追求することに加えて、認識的合理性を追求する。
以上
